事例1:軸穴の有効長さが軸穴径の4倍を超える長さになる場合の改善事例
図1は、軸穴加工を施した比較的シンプルな作りの図面です。しかし、この図面には改善ポイントが1点隠れています。
【問題点】軸穴径に対して突き出し量が長すぎる
軸穴を加工する際はドリルで下穴加工を行い、ボーリングバイトという刃具で必要な穴径と公差に削り、仕上げを行います。ボーリングバイトはその径によって「突き出し量(どの程度の深さを削れるか)」が決まっており、通常は径の4倍の深さとなっています。
つまり、今回の図面の場合、軸穴径φ15のため、市販のボーリングバイトで削れる長さは60㎜(φ15x4倍)となります。
一方で図面の軸穴の有効長さは71㎜のため、軸穴の有効長さに対して突き出し量が11㎜足りず、突き出し量を伸ばす必要があります。そうすると、加工をする際にボーリングバイトの先端が振動したりたわんだりすることで、加工の精度が下がり、公差維持ができなくなるなど再製作の可能性が高まります。
【改善策】軸穴の有効長さ を軸穴径の4倍以内にする
軸穴有効長さを軸穴径の4倍以内におさえることができれば、市販のボーリングバイトで加工でき、かつ公差維持が容易となり、コストアップを抑制できます。
図3は、この改善ポイントを取り入れた図面です。
プーリの総幅71㎜に対して実際の公差を維持する長さを60㎜(軸穴径φ15×4倍)とし、残りの11㎜は①のようにザグリを入れるという変更を行いました。
事例2:キー溝・タップ加工がある図面の改善事例
図4は、カタログサイズである18S8M0250BFのプーリに、軸穴15H7、キー溝6、タップM5の加工が指示された図面です。この図面では、改善ポイントが2点隠れています。
【問題点】「ネジ有効長さ」「キー溝寸法」「干渉径」について見直しが必要
①「ネジ有効長さ」が足りないと、ネジが緩んでくる可能性がある
ネジ有効長さはネジの呼び径 の最低1.5倍を確保する必要があり、それを下回るとネジがゆるんでくる危険性があります。今回の場合、M5×1.5=7.5㎜必要であるのに対し、図面では3.9㎜しか確保できておらず、ネジ有効長さが足りていません。
②標準の加工治具(ブローチ)で加工ができない「キー溝」寸法になっている
キー溝加工に用いるブローチは軸穴径を基準に、幅・公差・深さがJISで決まっています。標準規格以外のサイズにしようとすると特注のブローチを制作する必要が出てきてしまい、コストアップにつながってしまいます。
JISで定められているブローチでは、軸穴φ15の場合、キー幅5㎜、キー溝の深さ2.3㎜が標準となっています。
今回の図3の場合、キー幅6㎜、深さ2.8㎜であり、標準外となります。
③「干渉径」が最大軸穴径を上回っており、強度が足りていない
カタログに掲載されている最大軸穴径は「そのプーリに加工できる丸穴の最大径」を意味しています。キー溝やタップ加工を行う際は、プーリの機能や強度を維持できる肉厚を考慮した「干渉径」を確認し、その干渉径が最大軸穴径 を上回らないようにしていく必要があります。
今回選定したプーリサイズのカタログ上の最大軸穴径はφ19です。
ここで先ほどの図4をもう一度見てみると、軸穴径がφ15、キー溝の深 さが2.8㎜、M5のねじ深さが3.9㎜ となっています。干渉径を考える際は、反対側にも同様の加工が施されていると仮定して考えるため、15+(2.8+3.9)×2=干渉径φ28.4となります。この干渉径φ28.4は、このプーリサイズの最大軸穴径φ19を上回ってしまっています。
必要な肉厚を確保するための考え方を表1のようにまとめました。
【改善策】キー溝が標準規格となるよう変更する+プーリサイズを大きくする
上記3つのポイントの改善にむけて、まず、キー溝の深さを標準規格のブローチで加工するための考え方について解説します。
キー溝の解決策は、キー溝を深さ2.3㎜、キー幅5㎜に変更するか、キー溝深さ2.8㎜、キー幅6㎜に合わせて軸穴径を変更するかの2パターンが考えられます。
今回は、要求トルクの関係上、キー幅6㎜を確保する必要性があると判断し、後者の改善策を採択することとします。
そのため、プーリの軸穴径をφ15からφ17に変更し、JISに準拠する標準ブローチで加工できるようにしました。
次に、必要な肉厚を確保するためにプーリサイズを大きくしていきます。
今回のケースでは、最大軸穴径が干渉径を上回るようなサイズのプーリを選択し直します。上述したネジ有効長さが7.5㎜以上となるように設計すると、干渉径が最低でも軸穴径φ17+(2.8+7.5)×2=φ37.6となります。そのため、最大軸穴径がφ37.6を満足するようなサイズのプーリを選択していきます。
これらの改善ポイントを取り入れた図面が図5です。
プーリサイズを18S8M0250BFから24S8M0250BFにサイズアップすることで必要な肉厚を確保しました。
事例3:幅広のプーリの改善事例
図6は少し特殊な例とはなりますが、幅広のプーリに軸穴加工を施した図面です。
この図面にも改善ポイントが1点隠れています。
【問題点】軸穴径に対して幅が長すぎる
事例1と似ていますが、事例1はボーリングバイトの突き出し量の関係で精度が保てなくなることが問題でした。
この事例3では、刃具自体の最大加工長を超えてしまっており、この図面のままでは加工できないことが問題となってきます。
このような場合、図7のように両側から繋ぐ加工を行ったとしても、刃具の先端にたわみが発生し公差が維持できません。また、穴をつなぎ合わせる付近で図7のような芯ズレが発生するため、シャフトが通らなくなる事態にもつながります。
【改善策】中央部分に逃げ加工を行う
中央部分に逃げを入れることで、左右から刃具を入れて加工したとしてもシャフトをスムーズに貫通させやすくなります。
図8はこの対策を行った図面です。中央部分に逃げを入れ、公差を確保しつつ、シャフトを通しやすい形にしています。
事例4:軽量化の改善事例
近年、「サーボモータの制御精度を上げたい」「軸受けのベアリングのもちを伸ばしたい」といった理由により、プーリを軽量化する要望が多くなっています。
この図9と図10は、プーリを軽量化するためにヌスミを入れている図面です。どちらの図面にも、共通する改善ポイントが1点隠れています。
【問題点】ヌスミ深さが深すぎて、市販の治具で加工できない
市販の治具である「端面溝入れバイト」で加工できる深さは25~35㎜であり、それ以上の深さを加工する場合は専用刃具を使用するか、加工条件を落とさなければなりません。
さらに、最近は刃具の構造上、標準の組み合わせ以外の工具はCNC旋盤で使用しにくい場合があり、見積もりを行った際に高額な回答が返ってくる可能性があります。50㎜の深溝加工の場合、「ろう付けバイト」といった工具を使用することで深溝加工できますが、非常に効率が悪く、加工時間もかかります。
【改善策】工具を変更する または キリ穴加工を施す
今回の事例の場合、工具の加工限界深さがポイントとなっています。
そのため、最初に深溝加工に適した別の工具を使用できるような形状に変更することが対策の一つです。または、工具は変更せず、その工具で加工できる深さを守ったうえで、ドリルで穴を開ける「キリ穴加工」を施すという対策も選択できます。
図11は図9をもとに、シャフトと接する部分を片寄せすることで、「端面溝入れバイト」ではなく通常の市販ボーリングバイトを使って加工できるように変更しました。こうすることで工具の制約を解決し、50㎜の深さであっても問題なく削ることができます。
また、図12の場合は、図10をもとに市販の「端面溝入れバイト」で加工できる深さに留めておきつつ、ドリルで中央に穴をあける「キリ穴加工」に変更することで、軽量化と加工の容易さを両立させた事例です。
事例5:フランジ取り付け時を考慮した改善事例
歯付プーリにフランジを取り付ける場合は、フランジを適切に取り付ける事ができる寸法になっているかどうかが重要なポイントになります。この事例では、フランジをカシメで取り付けることを想定した場合のチェックポイントを解説します。
まず、フランジカシメについて説明します。図13のようにプーリの一部に圧力をかけ、フランジ側に金属プーリを変形させる事でフランジを固定させる方法です。プーリをフランジ側に膨らませる量を内部変形量(図14)といい、適切な内部変形量を確保することが重要となります。
【チェックポイント①】カシメ代が適正か
歯付プーリを作図する際、カシメ代が少なすぎるとプーリ本体とフランジ板厚の差が少なくなり、フランジを保持するために重要な内部変形量が稼げなくなります。そうなるとフランジの保持力が維持できず、フランジが外れてしまう事態に繋がります。
一方でカシメ代が多すぎると、段差がありすぎてカシメの変形がフランジ内部まで届かず、カシメが効いていない状態になり、フランジをきちんと固定できていないため、プーリを正しく使うことができません。
カシメの適正量については、下表2をご参考ください。
【チェックポイント②】肉厚が薄すぎないか
これはプーリが小径の場合に発生しがちなケースです。
軸穴とフランジ内径部分の肉厚が薄すぎると、本来フランジ側にかかるべきカシメ力が、軸穴側に逃げてしまいます。結果としてフランジを適切に保持できない上に、軸穴側に膨らみ(内部変形)が発生してしまっているため、軸を通そうとすると膨らんで入らない、といった事態にも発展します。
必要な最低肉厚量については下表3をご参考ください。
【チェックポイント③】フランジ段差が狭すぎないか
このポイントはボス付プーリの場合に気を付けていただきたい点です。
図17の②で示しているフランジ段差(直径差)が狭すぎると内部変形量が少なくなり、フランジの保持力が確保できません。
フランジ内径に対してボス径を大きくしたいというご要望をお持ちの場合、フランジ段差を確保するのが難しくなってきますが、下表4に最低限必要な段差量の目安をまとめましたので、ご参考ください。
ベルトとプーリをセット購入するメリット
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歯付ベルトは同じ歯形であっても、噛み合い歯数が多くなると噛み合い不良を起こす可能性があるため、当社ではお使いのベルトに合わせたプーリのチューニングを実施し、ベルトの異常摩耗やフランジ乗り上げが起こらないよう調整しています。
セット使用での品質保証体制
ご使用上で問題が発生した際、ベルトとプーリをセットでご使用していただくと原因特定が容易になります。また、当社の伝動技術研究所では、多種類の試験機による性能評価および耐久評価を実施しているため品質が保証されています。
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